猫カフェにて

catcafe

会社のすぐ近くに『ミアオ』という名の猫カフェができた。
1時間1000円、30分700円。
コーヒー1杯だけ飲むには、まあ、けっこうな値段だ。
ただ、職場の女の子にしきりに勧められていたから、
いつか入ってみようとは思っていた。
クライアントとの打ち合わせで、話しのネタにでもなるし…。
そんな軽い気持ちでトビラを開けた。

客が10人も入れば一杯になる狭いスペースだ。
店内にはぼく以外には一組のカップルだけ。
20代後半同士?仲むつまじそうだが、
女性がたまに猫よりも男に目を向けて、やけに真剣なまなざしをする。
計算高そうな目つきだな、そんな風にも感じられた。
カップルはふたり掛けのソファに座って、1匹の三毛猫をあやしている。
ぼくはアイスコーヒーをオーダーして店内を見回す。
合計7匹の猫がいるようだ。
フローリングの床に寝転がっているのが3匹。
空いたソファに2匹。低い本棚の上でしゃがんでいるのが1匹。

本棚の上のシャム猫と、ふと目が合った。
妙に意志的な目だ。
視線の鋭さに、ぼくは思わず目を逸らしてしまった。
「あの子は今日入ったばかりですよ」
アイスコーヒーをテーブルに置きながら、
店の女の子が言った。
そして本棚に向かうと、シャム猫を胸に抱いてきて
ぼくの膝にのせる。
「可愛いでしょう?名前はミーちゃんです」
すると、シャム猫のミーちゃんがぼくを見上げて微笑んだ。
いや、そう見えた。

ミアァァ~ ミャ~オ
ぼくの膝のうえで、ミーちゃんが嬉しそうに声を出し、
ぼくのお腹に頭をすり寄せてきた。
つい、2週間ほど前に恋人と大喧嘩したばかりだった。
些細なことから言い争いになって、それがどんどんエスカレートして売り言葉に買い言葉。
しばらく会わずに冷却期間を儲けよう。そういうことになった。

美千子という、いかにも古風な名が気にいらなかったらしく、
彼女は自分のことをミーと言い、ぼくにも友人たちにもそう呼ばせていた。
そうか、お前もミーなのか。
胸につぶやいてミーちゃんを胸に抱いた。
あいつのことが嫌いになったわけじゃない。
行きがかりであんなことになってしまったが、まだ美千子のことは好きだ。
こんな店にふらりと入ってしまったのも、
寂しさをたっぷり引き摺っていたからなのかも知れない。

同じミーでも、おまえのほうが可愛いな。
そう思った途端に携帯が鳴った。
まるで今の自分の心の動きを悟られたんじゃないか?
そんな気がする絶妙のタイミングだった。
「もしもし」
携帯を耳に当てると、ミー、美千子の声が返ってきた。
「博明?」
2週間ぶりに聞くミーの声は、やけに乾いた冷たいトーンを帯びている。
「あ、ああ…。久しぶりだな」
敢えてぶっきらぼうに言うが、ぼくはすごくうれしかった。
もう一度、ミーとやり直したい。
結婚のことも真剣に考え、きちんとロードマップをつくろう。
二人はきっとうまくやれる。幸せになれるはずだ。
ぼくの心はそんな思いでいっぱいになった。

「博明、いま、どこに居るの?」
猫カフェでシャムを抱いている、なんて言えやしない。
「得意先の会議室。いまは打ち合わせのインターバルだ」
「ミアオに居るんでしょ?この嘘つき」
なんで分ったんだ?
「女はね、男ほど単純でも能天気でもないの。
男によって左右されてバカを見る自分の未来なんて
ゴメンなの。結婚にギャンブルなし!リスクなし!妥協なし! 当然でしょ?。で、猫の体内に埋め込まれたジャッジセンサー が答えをくれたわ」
「はぁ?おまえ何言ってんだ?」
「猫型ロボットはドラ○もんしかいないと思ったら大間違いよ。
あなたがね、いま抱いてる猫は最新鋭のキャットロイド。
体毛約100万本が精巧な分析機能を持っているの。
あなたの脳内情報から病気因子の有無、
将来性からベッドスキルまで何もかも判定してくれたわ」

げっ、いつからそんなもんができたんだ?
それって、つまり、猫カフェやウサギカフェやふくろうカフェや
なんだらかんだら動物カフェの実態はもしやして…?!」
「そう、女が自分を守るためにできた科学施設なのよ。
国家承認のね…。あなたにはノラ猫以下のF判定が下されたわ」
「そんな…」

ツー ツー ツー